"組織変革とエンジニア採用ページに込めた想い:治療アプリという新しい医療分野の中で変化し続ける組織の成功戦略とは"
今年創業10年となるCureAppは、2020年に日本で初となる治療アプリ(ニコチン依存症向け治療アプリ)をリリース。2022年には高血圧症向け治療アプリも上市された。
社員数も250人規模まで成長する中で、組織運営は決して順風満潮なことばかりではなかった。約1年前にVPoE (Vice President of Engineering)として入社した田邉は、入社当時、組織がある構造上の課題を抱えていたと話す。現在はその課題点を明らかにし、組織改革を行ったことで良い方向に向かうようになった。
どのように改革を進めていったのか。また、ホームページに掲げるエンジニア採用ページのメッセージ(OUR TEAM)に込めた想いについて共同創業者の一人である鈴木と、VPoEの田邉に聞いた。
鈴木晋
開発統括取締役/医師
慶應義塾大学医学部在学中にプログラミングを習得、起業も経験。株式会社カヤックの技術留学制度、東京大学医科学研究所でのゲノム解析で開発技術を蓄積。CureAppを佐竹と創業し、現在は開発統括取締役として技術選定から開発・運用まで開発全般を指揮しながら、診療の現場にも立ち続けている。
田邉裕貴
VPoE (Vice President of Engineer)
新卒でヤフーに入社し新規アプリやヤフー地図アプリのリニューアルなどを行う。その後 VR スタートアップの立ち上げや EdTech 企業で開発組織立ち上げなどを経験して 2022 年に CureApp へ入社。Firebase と Google Workspace の GDE (Google Developers Expert) として Google 技術のエバンジェリスト活動も行っている。
――簡単に自己紹介からお願いします。
鈴木:CureAppの共同創業者の鈴木です。会社では治療アプリの開発を率いてきました。私は元々医師ということもあり、どうしたら治療効果を高められるかという企画的な部分にも関わっています。開発全般を見ているというのが、現在の私の仕事内容になります。
田邉:最初に入社したのがヤフー株式会社で、地図アプリのリニューアルプロジェクトや新規アプリの開発などを経験してきました。その後はVRスタートアップを起ち上げや、EdTech企業でエンジニアリングマネージャーをしていました。当時、3人目のエンジニアとして入社したのですが、その後70名くらいの規模まで組織を成長させた経験があります。CureAppには、昨年8月にジョインしました。
鈴木:田邉さんが入社した当時、エンジニア部門は離職率が高く、人が定着しないという課題を抱えていました。そのため組織変革を期待して、田邉さんに入社して頂きました。徐々に田邉さんに権限を渡していき、試行錯誤する中で組織の構造的な問題点が、徐々に明らかになっていきました。
――以前の組織にはどのような課題点があったのでしょうか。
鈴木:課題点は大きく2点ほどあったと思います。
1つは事業の特性上、1つのプロダクトが世に出るまでの開発期間が通常製品よりも、ずいぶん長いということです。
CureAppで治療アプリを初めて出すことができたのが2020年のことで、創業から約6年かかりました。通常のエンジニアの仕事ですと、1年開発したらユーザーからフィードバックが得られるのが通常です。それが我々のプロダクトの開発では、平均5,6年かかるので、かなり状況が違っていたわけです。
そのため、なかなかプロダクトが日の目を見ない孤独なマラソンのような状況が続いてしまっていました。その事業の特性を十分に理解仕切れずに入社した方にとってはとても過酷な環境だったのかもしれません。
また、もう一つの課題点としては、会社が期待する役割と本人の意思のミスマッチがありました。CureAppでは1つのプロダクトの開発期間が長いので、アプリを継続的に出すために、たくさんのプロジェクトを並行して進める戦略をとっています。そこで1つ1つのプロジェクトに開発スケジュールや人のマネジメントができ、かつ技術にも長けているエンジニアのリーダーが必要だと考え、人を配置していました。ただ、入社したエンジニアが皆リーダーになりたかったり、マネジメント職を希望しているわけではなかったので、重圧や責任を感じて辞める方もいたり、うまく行かない状況が続いていたんです。
そのような行き詰った状況を打開できる方を求めている時に、田邉さんを紹介していただき出会いました。話をさせてもらった後すぐにオファーを出して入社頂いたという経緯があります。
”一人一人の持つ技術や気持ちを大切に最大限活かしたい”、という気持ちを原動力に
――田邉さんがオファーを受けた時は、どのような気持ちだったのでしょうか。
田邉:まず話を聞いて、CureAppは日本の治療アプリのトップランナーとして、すごくおもしろい会社だなと思いました。
それと同時に、これほど価値があるものを作っているのに組織がうまくいっていないのは、すごくもったいないとも思ったんです。入社して最初は大変な状況でしたけど、一人一人の持つ技術や気持ちを大切に、最大限に活かしていきたい、そう思えた気持ちが支えになり、原動力にもなりました。
――入社して、組織改革のために具体的にどんなことをされましたか。
田邉:鈴木さんが2つ目の課題としてあげていた、各プロジェクトに必要なリーダーという意味では、確かに、プロジェクトを推進する力、技術力、そして人をマネジメントする力という3軸が必要になると思います。エンジニアのキャリアパスとしても、その3軸の中の一つを極めるというのが基本ルートです。しかし、この3つを求められて、全てをできる人というのは、実際には、なかなかいないものです。CureAppのプロジェクトでも、そのすべてを求めてしまった結果、リーダーの負荷が高くなりすぎてしまった状況がありました。
なので、技術をリードする組織としてCTO室、そして、人をマネジメントする組織として私がリーダーをつとめるVPoE室を作り、その部屋の人たちが皆でプロジェクトをマネジメントしていきましょうという形にして、1人1人の負荷を分散させました。各プロジェクトにはVPoE室も関わりつつ、プロジェクトリーダーも別に専任でいるというような建付けにしています。今は体制が整いつつあり、安定してきたところです。
鈴木:リファラル採用で、その後エンジニアリングマネージャーとして入社もしていただきましたね。
田邉:そうなんです。私の知り合いでプロジェクトリーダー候補として鈴木さんにも面接してもらった方がいたんですが、エンジニアリングマネージャー(EM)にも適性がありそうだね、と鈴木さんが見抜いてくれたことがありました。彼は今、EMとして活躍してくれています。新しく入ってきた人たちもチャレンジしながら、成果を出せる環境に整ってきたなと感じています。
OUR TEAMのメッセージに込めた想い
――CureAppのホームページ上にある、エンジニア採用ページの「OUR TEAM」のメッセージも大きく変えたとお聞きしています。メッセージに込められた想いを教えて頂けますか。
田邉:組織運営が安定してきたところで、ホームページのメッセージも変えることにしました。以前はTypeScriptやJavaScriptなどの言語や設計を強調したメッセージになっていて、技術に興味がある人を採用していくという方針が感じられるメッセージでした。
もちろん技術に関心がある事も大切ですが、新しいメッセージでは医療分野への関心や、治療アプリを実現していくためのマインドを強調し、会社のゴールに向かって一緒にやっていける人に来てほしいというメッセージを強く打ち出しています。
鈴木:会社が始まったばかりの、事業の実現可能性もよくわからないフェーズでは、新しい技術を使ったチャレンジングな環境であることをメッセージとして打ち出すことが、エンジニアの魅力として映っていたと考えています。
実際にそのメッセージでジョインしてくださった優秀なメンバーに支えられて、初期のフェーズを引っ張ることができました。
ただ会社のフェーズが変わり、メンバー数も増え、さらに新しいプロダクトを推進していくためには、技術力だけではなく、プロジェクトリードや人のマネジメントも必要になってきます。そのどれも大切になってきたという意味で、医療という事業を主体にしたメッセージに変える事にしました。
業務委託採用も柔軟に
――他にも、組織改革のために変えたことはありますか。
田邉:私が入社したタイミングでは、圧倒的に人員が足りない状態でした。それぞれのプロジェクトで開発が日々進んでいく中で、人材確保という点は最も早急に解決すべき課題でした。今までは正社員の採用を考えていたのですが、これはなかなか現実的に短期で採用することは無理があるので、これまであまりしてこなかった業務委託採用をしやすくすることが急務と考えました。そこで法務チームに掛け合って、業務委託採用の比率を上げることで人員の配置を安定させることができました。
鈴木:元々、CureAppでは業務委託を採用する文化がなく、それまでの比率は10%程度だったんです。もともとは法務的な観点から業務委託は最小限にしていたのですが、、田邉さんが法務担当の方と詳細に適法なやり方の目線合わせをしてくれて、その点を解決してくれました。これまで社員と業務委託は、分けてマネジメントしていましたが、現在は法的な位置づけをクリアした上で、各チームではほぼ一緒のメンバーとして受け入れています。週1回のエンジニアミーティングにも業務委託の方も任意で参加できるようにしました。その結果、業務委託から正社員として入社してくださる方も出てきています。
田邉:会社のサーベイ数値も、この半年ほどで会社の平均値以上にいくようになり、実感としても働く環境が改善されてきたのを感じています。
CTO室という技術を統括する部署を作ったことで、エンジニア同士の横のネットワークができて、そのことによるモチベーションアップなどもあるようです。
鈴木:そうですよね。これまではプロジェクトへの所属意識が強かったのですが、今は新たにできたCTO室の存在感が増したのも感じています。以前は形骸化していたエンジニアミーティングも運営チームを作ったことで、良い運営ができるようになりましたね。
――目指したいのはどんなチームですか。
田邉:視座高く目的実現に向かえるチームにしていきたいです。プロダクトを作るだけにとどまらず、どう自分たちが動いていけばより多くの患者さんに良いプロダクトを届けられるのか、まで考えられるチームになっていきたいです。うちの部門が安定してきたら、他の部門を助けたり、そういった動きが自然にできるようになれればと思います。
鈴木:この1年間で、しっかりと地固めできたと考えています。CureAppが作る治療アプリとは何なのかを再定義して、これからは共通基盤を作ったり、プロダクトをより効率的に作るにはどうすればいいか考えていきたいですね。攻めのフェーズに入っていきたいです。
▼エンジニア部門ページ:
https://cureapp.co.jp/engineers.html
(取材ライティング/柳澤聖子)