<飲酒は乳がんのリスクを高める⁉>

<飲酒は乳がんのリスクを高める⁉>

女性のお酒の飲み方が気になったら、積極的に心配を伝えよう
CureApp宋医師が飲酒と乳がんの関係を解説


 日本では毎年9万人以上の方が乳がんの診断を受けており、日本人女性がかかるがんの中でもトップです。さらに、乳がんの罹患率は年々増加し続けています。乳がんは誰にでもリスクがあり、確実に予防できる方法はありませんが、飲酒が乳がんのリスクを高める可能性があることが分かっています。そこで、今回は女性のアルコール問題に着目し、女性の飲酒について気を付けなければならない点をCureAppで減酒治療アプリの開発を担当する宋医師が解説致します。

乳がん≒お酒を良く飲む人⁉

 国際的な研究において、飲酒が確実に乳がんのリスクを高めることが分かっています。飲酒量の増加に伴い、乳がんにかかるリスクが増え、1日当たりの純アルコール量*50g以上で1.61倍のリスク増加になると報告されています(図1参照)*1。

 戦後、女性の社会進出により女性の飲酒率も増加しました。現在、女性の「生活習慣病のリスクを高める量」を飲酒している者の割合は7.47%という報告*2があり、健康日本21(第2次)の目標である6.4%を上回っている状況です。乳がんに罹患する女性は年々増加しており、昭和60年8.0だった死亡率が令和4年には25.4まで上昇しています*3。女性の飲酒率の増加と乳がんの患者数の増加は無関係ではないでしょう。

*お酒の量(ml)ではなく、お酒に含まれる純アルコール量(g)に着目します。各社の商品裏面に記載している場合もあります。

女性の飲酒の特色について

 乳がんは30代前半から急増し40-50歳代が罹患のピークですが、この世代の女性の飲酒量が突出して多いことが分かっています(図2参照)*4。


橋本健二『女性の階級』では、女性の格差の構造を30グループに分け、各グループに所属する女性の特徴を解説しています。「お酒をよく飲む」と回答したグループは「シングルマザー」「独身貴族」「ダブルインカムの女たち」「働く主婦」*5(原文ママ)において多くなっています。女性の飲酒の動機は、配偶者の飲酒、家庭内問題や仕事のストレスなど環境要因の占める割合が大きい傾向があり、自己治療的にアルコールに依存してしまうケースも少なくありません。さらに、女性の飲酒の特徴のひとつに男性に比べて若くしてアルコール依存症になってしまうケースが多くみられます。その要因のひとつとして考えられるのが、女性は男性よりもアルコールに弱いことです。アルコールの分解速度が女性は男性の半分〜3/4程度しかなく、さらに女性は体脂肪が多く水分量が少ないことでアルコールが薄まりにくいため、アルコールの影響をダイレクトに受けてしまうのです*6。

女性は男性と比べて飲酒について心配されにくい

 私が大阪、兵庫、岡山、広島の内科診療所の先生方と実施した研究では、内科診療所に通院する患者さん1388名(男性:697名 女性:691名)のうち、男性101名(14.5%)が過去1年間に他者から飲酒について心配されたことがあると回答しましたが、女性は20名(2.9%)でした。女性はアルコール問題が男性と同程度であっても、他者から心配される確率は男性の1/3に過ぎないことがわかりました(下図参照)*7。

女性のお酒の飲み方が気になったら、積極的に心配を伝えよう

 女性が飲酒を楽しむ際に知っておいて欲しいことは、まずお酒の適量が男性より少ないということです。自身の飲酒量が気になったときは、SNAPPY CATでチェックをしてみてください。自分のお酒の量、そして問題度を同年代と比べて順位で示してくれます。

 また、男性に比べて女性は飲酒について心配されにくく、家族のサポートを受けにくい現状を知って頂きたいと思います。女性のお酒の飲み方が気になったら、周囲の方が積極的に声をかけ心配を伝えて欲しいと思います。飲酒量低減薬の処方も開始されておりますので、飲酒量をご自身で減らすことが困難な状況にあれば、是非医療機関に相談してみてください。
(1)Bagnardi V, Rota M, Botteri E, Tramacere I, Islami F, Fedirko V, Scotti L, Jenab M, Turati F, Pasquali E, Pelucchi C, Galeone
 C, Bellocco R, Negri E, Corrao G, Boffetta P, La Vecchia C Alcohol consumption and site-specific cancer risk: a comprehensive dose-response meta-analysis
(2)久里浜医療センター 令和4年度 依存症に関する調査研究事業 「飲酒実態やアルコール依存に関する意識調査」報告書 令和6年6月
(3))出典:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」 
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf
(4)厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
(5)橋本健二 女性の階級 PHP新書 1394 2024年
(6)岩原千絵 真栄里仁 樋口進 女性とアルコール関連問題 医学のあゆみ VOL.274 NO.1 2020.7.4 104-109
(7)Hiroki Nishimura,Ryuhei So,Kazuya Kariyama,Shunsuke Oyamada,Sachio Matsushita,Toshi A,Furukawa,Kazuhiro Nouso
 The gender difference in expressed concerns about hazardous drinking in primary care settings

<解説>宋 龍平


株式会社CureApp / 岡山県精神科医療センター 医師
東京医科歯科大学 精神行動医科学 非常勤講師
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 研究協力員

長年、アルコール依存症に精神科医として向き合う中で、早期治療普及の重要性を痛感し、CureAppで減酒治療アプリプロジェクトを立ち上げた。最前線の診療現場に立ちながら、研究にも精力的に取り組み、日本アルコール・アディクション医学会を始め、複数の学会で受賞歴がある。 
研究実績はこちら https://researchmap.jp/rso

※取材をご希望の際はCureApp広報までご連絡をお願いいたします。