<9月10日~9月16日 自殺予防週間> 辛い気持ちを紛らわせるお酒の飲み方は危険!
<9月10日~9月16日 自殺予防週間>
辛い気持ちを紛らわせるお酒の飲み方は危険!
CureApp宋医師が飲酒とメンタルヘルスの関係を解説
9月10日は世界自殺予防デーです。2003年に世界保健機関 (WHO)と国際自殺予防学会(IASP)が共同で開催した世界自殺防止会議の初日を最初の世界自殺予防デーとして、世界的に自殺対策に取り組む責任があると決意表明された日です。日本では、自殺対策基本法に基づき9月10日〜9月16日を自殺予防週間と定め、啓発活動を推進しています※1。
日本では令和5年に2万人以上の方が自殺で亡くなっています※2。自殺の原因は複雑なため特定することは難しいですが、うつ病などの「健康問題」が最多であるとされています※3。また、アルコール依存症とうつ病は高い頻度で合併することが分かっています。アルコール依存症と自殺も強い関係があり、自殺した人のうち1/3の割合で直前の飲酒が認められるという報告もあります※4。しかし、飲酒とうつ病、自殺に関連があるということについて、世間での認知は10%以下との報告※5もあり、飲酒とメンタルヘルスの関係について今後周知、啓発していかなければならない課題であるといえます。
そこで、今回は飲酒とメンタルヘルスの関係に着目し、危険な飲み方についてCureAppで減酒治療アプリの開発を担当する宋医師が解説致します。
アルコール依存症とうつ病は合併する
アルコール依存症とうつ病の合併は頻度が高く、大きく分けて2つのパターンがあります。・うつ病がアルコール依存症に先行して発症する場合
・アルコール依存症の経過中にうつ病を発症する場合
アルコール依存症の既往がある者では、ない者に比べてうつ病を発症する危険性が4倍高いという報告があり※6、アルコール依存症自体がうつ病のリスクファクターである可能性が指摘されています。私の患者さんでも、断酒すると抑うつ症状が改善したというケースもしばしばあります。特に女性は自己治療的に飲酒してしまう傾向が強く、アルコール依存症と精神疾患が合併するケースが多くみられます※7。
家族や友人にお酒の飲み方が気になる人がいたら、是非積極的に「心配しているよ」と声を掛けてください。家族など大事な方を自殺で失うと、自殺を防ぐことができなかったと周囲の人は自責の念に苦しみます。自殺は誰かひとりの責任という訳ではありません。しかし、お互いに心配を伝え合う、人と人の繋がりが自殺を予防する第一歩になり得ます。
自身で飲酒量をコントロールすることができない状態であれば、医療機関を受診し相談してください。アルコール依存症の治療は原則断酒ですが、状態によっては減酒の選択肢もあります。飲酒量低減薬の処方もあり、アルコールとの付き合い方に悩む方に寄り添いながら治療する選択肢が広がっています。
※1:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/koho_index.html
※2:警視庁WEBサイト https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html
※3:令和3年中における自殺の状況 令和4年3月15日 厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課
※4:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-006.html
※5:松下幸生、 遠山朋海、古賀佳樹、新田千枝、柴崎萌未、伊東寛哲、木村充; 令和4年度 依存症に関する調査研究事業
「飲酒実態やアルコール依存に関する意識調査」、 2024年.
※6:橋本恵理、齋藤利和:アルコール依存症と気分障害.精神神経学雑誌、112;780-786,2010.
※7:岩原千絵 真栄里仁 樋口進 女性とアルコール関連問題 医学のあゆみ VOL.274 NO.1 2020.7.4 104-109
※8:内村直尚:アルコール依存症に関連する睡眠障害.精神神経学雑誌、112;787-792,2010.
※9:Shannon Lange , Laura Llamosas-Falcón , Kawon V Kim , Aurélie M Lasserre , Heather Orpana , Courtney L Bagge , Michael Roerecke , Jürgen Rehm , Charlotte Probst A dose-response meta-analysis on the relationship between average amount of alcohol consumed and death by suicide https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38820908/
不眠症を解消するためのお酒、実は逆効果⁉
アルコールは寝つくまでの時間を短縮させますが、睡眠の質を著しく悪化させます。何度も目を覚ます中途覚醒や、朝早く目覚めてその後眠れなくなる早朝覚醒が多くなり、熟睡感も乏しくなってしまいます。アルコールを毎晩飲んでいると、お酒を飲まないと眠れない状態になってしまうこともあります。不眠症はうつ病をはじめとした様々な精神疾患の初期症状として現れることが多くあり、不眠症を緩和しようとして飲酒した結果、アルコール依存症になることもあります。睡眠薬を危険な薬とみなしている方も多いと思われますが、医師から処方を受けた睡眠薬と比較して、耐性や依存性はアルコールの方が強いことが分かっています※8。不眠症に悩む方は飲酒ではなく、医療機関を受診し相談することが必要です。飲酒は自殺のリスクを高める
自殺を考えている人は死ぬ決心をしていると思われがちですが、「生きたい」気持ちと「死にたい」気持ちの間で揺れ動いていることが多いといわれています※1。その揺れ動く気持ちの中で本当は「生きたい」と思っていても、アルコールが衝動性を亢進させ、自殺行動に至ってしまうことがあります。また、習慣的な多量飲酒も抑うつ状態の原因となり、自殺に繋がる可能性があることが指摘されています。飲酒量の増加に関連する自殺のリスクを検討した研究結果によると、男女とも飲酒量が増加するに従い、自殺のリスクが高くなることが分かりました。男性は飲酒習慣がない者に比べ1日50gの純アルコール摂取で自殺リスクが1.7倍高いという結果になっています。また、女性は男性に比べてさらにリスクが高いという結果となっており、1日50gの純アルコール摂取で約12倍も自殺リスクが増加するということが分かりました※9。この性差の原因については更なる研究が必要とされていますが、男女ともに飲酒が自殺リスクに関連していることに疑いの余地はありません。自殺は飲酒だけで起こるわけではありませんが、本人及び周囲の人が留意することのできる要因のひとつであるといえます。1日平均純アルコール摂取量*と自殺リスクの関連について
*お酒の量(ml)ではなく、お酒に含まれる純アルコール量(g)に着目します。各社の商品裏面に記載している場合もあります。辛い気持ちを紛らわせるお酒の飲み方は危険
これまで、飲酒とメンタルヘルスの関係についてお伝えしてきました。特に、辛い気持ちを紛らわせるお酒の飲み方は危険があります。飲酒により一時的に、気分の落ち込みが改善され辛い気持ちを忘れられるかもしれません。しかし、酔いが覚めたときには一層絶望感や気分の落ち込みを感じ、また飲酒するという負のループに陥り、アルコール依存症に至ってしまうケースもあります。家族や友人にお酒の飲み方が気になる人がいたら、是非積極的に「心配しているよ」と声を掛けてください。家族など大事な方を自殺で失うと、自殺を防ぐことができなかったと周囲の人は自責の念に苦しみます。自殺は誰かひとりの責任という訳ではありません。しかし、お互いに心配を伝え合う、人と人の繋がりが自殺を予防する第一歩になり得ます。
自身で飲酒量をコントロールすることができない状態であれば、医療機関を受診し相談してください。アルコール依存症の治療は原則断酒ですが、状態によっては減酒の選択肢もあります。飲酒量低減薬の処方もあり、アルコールとの付き合い方に悩む方に寄り添いながら治療する選択肢が広がっています。
※1:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/koho_index.html
※2:警視庁WEBサイト https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html
※3:令和3年中における自殺の状況 令和4年3月15日 厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課
※4:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-006.html
※5:松下幸生、 遠山朋海、古賀佳樹、新田千枝、柴崎萌未、伊東寛哲、木村充; 令和4年度 依存症に関する調査研究事業
「飲酒実態やアルコール依存に関する意識調査」、 2024年.
※6:橋本恵理、齋藤利和:アルコール依存症と気分障害.精神神経学雑誌、112;780-786,2010.
※7:岩原千絵 真栄里仁 樋口進 女性とアルコール関連問題 医学のあゆみ VOL.274 NO.1 2020.7.4 104-109
※8:内村直尚:アルコール依存症に関連する睡眠障害.精神神経学雑誌、112;787-792,2010.
※9:Shannon Lange , Laura Llamosas-Falcón , Kawon V Kim , Aurélie M Lasserre , Heather Orpana , Courtney L Bagge , Michael Roerecke , Jürgen Rehm , Charlotte Probst A dose-response meta-analysis on the relationship between average amount of alcohol consumed and death by suicide https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38820908/
<解説> 宋 龍平
株式会社CureApp / 岡山県精神科医療センター 医師
東京医科歯科大学 精神行動医科学 非常勤講師
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 研究協力員
長年、アルコール依存症に精神科医として向き合う中で、早期治療普及の重要性を痛感し、CureAppで減酒治療アプリプロジェクトを立ち上げた。最前線の診療現場に立ちながら、研究にも精力的に取り組み、日本アルコール・アディクション医学会を始め、複数の学会で受賞歴がある。
研究実績はこちら https://researchmap.jp/rso。
株式会社CureApp / 岡山県精神科医療センター 医師
東京医科歯科大学 精神行動医科学 非常勤講師
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 研究協力員
長年、アルコール依存症に精神科医として向き合う中で、早期治療普及の重要性を痛感し、CureAppで減酒治療アプリプロジェクトを立ち上げた。最前線の診療現場に立ちながら、研究にも精力的に取り組み、日本アルコール・アディクション医学会を始め、複数の学会で受賞歴がある。
研究実績はこちら https://researchmap.jp/rso。
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