女性のお酒の飲み方が気になったら、積極的に心配を伝えよう

<10月はピンクリボン月間:乳がん予防のために知っておきたい飲酒のリスク>
女性のお酒の飲み方が気になったら、積極的に心配を伝えよう
CureApp宋医師が飲酒と乳がんの関係を解説

 毎年10月はピンクリボン月間です。ピンクリボンとは乳がんについての正しい知識を広め、検診やセルフチェックなど、乳がんの早期発見・早期治療の大切さを伝える活動の世界規模のシンボルマークです。
 日本では毎年9万人以上の方が乳がんの診断を受けており、日本人女性がかかるがんの中でも乳がんはトップの罹患数となっています。さまざまな研究により、乳がんのリスクを上げる生活習慣について明らかになっていますが、そのうちのひとつが飲酒です。戦後、女性の社会進出により女性の飲酒率も増加しました。現在、「生活習慣病のリスクを高める量」を飲酒している女性の割合は7.47%という報告※1があり、健康日本21(第2次)の目標である6.4%を上回っている状況です。乳がんに罹患する女性は年々増加しており、昭和60年8.0だった死亡率が令和4年には25.4まで上昇しています※2。女性の飲酒率の増加と乳がんの患者数の増加は無関係ではないでしょう。
そこで、今回は女性の飲酒問題に着目し、女性の飲酒について気を付けなければならない点をCureAppで減酒治療アプリの開発を担当する宋医師が解説致します。


飲酒習慣と乳がんリスクの関係が明らかに

 国際的な研究において、飲酒が確実に乳がんのリスクを高めることが分かっています。飲酒量の増加に伴い、乳がんのリスクが増え、1日の平均純アルコール量*50g以上でリスクは1.61倍に増加します(図1参照)※3。
 さらに、乳がん発症には女性ホルモンの関与が指摘されており、閉経前後に分けて、飲酒が乳がんのリスク増加にどの程度関わるのかについても検討されています。
WCRF(World Cancer Research Fund International)によると、飲酒の乳がん発症を高める可能性は閉経前「Probable(ほぼ確実)」、閉経後「Convincing(確実)」と結論付けられています(図2参照)※4。

*お酒の量(ml)ではなく、お酒に含まれる純アルコール量(g)に着目します。各社の商品裏面に記載している場合もあります。

女性の飲酒の適量は男性の半分である理由

 乳がんは30代前半から急増し40-50歳代が罹患のピークですが、この世代の女性の飲酒量が突出して多いことが分かっています(図3参照)※5。また、上述した通り、閉経後の女性は飲酒により乳がんのリスクがより高いといえますが、丁度飲酒量が多い世代と一致します。このことから、乳がんの罹患が多い年代の女性で飲酒量が多いことが分かります。

 では、女性が健康に配慮しながら楽しめるお酒の量はどのくらいでしょうか。飲酒による影響は個人差が大きく、年齢、体質などによっても異なりますので、目安として考えて頂きたいのですが、厚生労働省は「生活習慣病のリスクを高める量」の飲酒について「1日当たりの純アルコール摂取量が男性 40g以上、女性 20g以上」と定義。女性は男性の半分の量となっています。これには、①アルコールの分解速度が女性は男性の半分〜3/4程度しかない、②女性は体脂肪が多く水分量が少ないことでアルコールが薄まりにくいという理由があります。女性は男性に比べアルコールの影響をダイレクトに受けてしまうのです。そのため、飲酒は乳がんのリスクを高めるだけではなく、女性は男性の半分の飲酒量で肝障害をきたし、男性より11歳早く肝硬変に至るとされています。また、アルコール依存症になってしまう女性の平均年齢は男性より若いことが分かっています※6。

女性は男性と比べて飲酒について心配されにくい

 私が大阪、兵庫、岡山、広島の内科診療所の先生方と実施した研究では、内科診療所に通院する患者さん1388名(男性:697名 女性:691名)のうち、男性101名(14.5%)が過去1年間に他者から飲酒について心配されたことがあると回答しましたが、女性は20名(2.9%)でした(図4参照)※7。また、男性と女性の飲酒問題度を考慮した場合においても、女性は他者から心配される確率は男性の1/3に過ぎないことが分かりました※8。

女性のお酒の飲み方が気になったら、積極的に心配を伝えよう

 飲酒はさまざまながんのリスクを上げることが分かっていますが、女性が特に注意したい乳がんのリスクを高めます。この事実を知って頂き、適切な量の飲酒を守ることが必要です。自身の飲酒量が気になったときは、SNAPPY CATでチェックをしてみてください。自身のお酒の量、そして問題度を同年代と比べて順位で示してくれます。

 また、男性に比べて女性は飲酒について心配されにくく、家族のサポートを受けにくい現状を知って頂きたいと思います。女性のお酒の飲み方が気になったら、周囲の方が積極的に声をかけ心配を伝えてください。飲酒量をご自身で減らすことが困難な状況にあれば、是非医療機関に相談してみることを提案してください。現在は飲酒量低減薬の処方もあり、お酒との付き合いに悩む方に寄り添いながら減酒していく治療法が広がっています。

※1::久里浜医療センター令和4年度 依存症に関する調査研究事業「飲酒実態やアルコール依存に関する意識調査」報告書   令和6年6月
※2:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」 
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf
※3:Bagnardi V, Rota M, Botteri E, et al. Alcohol consumption and site-specific cancer risk: a comprehensive dose–response meta-analysis. Br J Cancer. 2015;112:580–93. doi: 10.1038/bjc.2014.579.
※4:乳癌診療ガイドライン2022年度版 https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/e_index/bq1/
※5:厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
※6:岩原千絵 真栄里仁 樋口進 女性とアルコール関連問題 医学のあゆみ VOL.274 NO.1 2020.7.4 104-109
※7:So R, Kariyama K, Oyamada S, Matsushita S, Nishimura H, Tezuka Y, et al. Prevalence of hazardous drinking and suspected alcohol dependence in Japanese primary care settings. Gen Hosp Psychiatry. 2024;89:8-15.
※8:Nishimura H, So R, Kariyama K, Oyamada S, Matsushita S, Furukawa TA, Nouso K. The gender difference in expressed concerns about hazardous drinking in primary care settings. Gen Hosp Psychiatry. 2024 Jun 14
(24)00147-6. doi: 10.1016/j.genhosppsych.2024.06.008.


<解説> 宋 龍平

株式会社CureApp / 岡山県精神科医療センター 医師
東京医科歯科大学 精神行動医科学 非常勤講師
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 研究協力員

長年、アルコール依存症に精神科医として向き合う中で、早期治療普及の重要性を痛感し、CureAppで減酒治療アプリプロジェクトを立ち上げた。最前線の診療現場に立ちながら、研究にも精力的に取り組み、日本アルコール・アディクション医学会を始め、複数の学会で受賞歴がある。 
研究実績はこちら https://researchmap.jp/rso

※取材をご希望の際はCureApp広報までご連絡をお願いいたします。