<2025年 加速する治療アプリ開発と社会実装>

<2025年 加速する治療アプリ開発と社会実装>

 CureApp宋医師が治療アプリの開発状況と可能性について解説

お薬と同じように有効性・安全性が確認され、医療機器として使用する治療アプリ。一般的なヘルスケアアプリと異なり、病気の治療を目的としたプログラム医療機器であり、厚生労働省の承認(もしくは認証)が必要な医療機器に分類されます。欧米諸国では既に市場拡大が進んでいますが、国内でも株式会社CureAppにより開発されたアルコール依存症に対する減酒治療アプリが薬事承認申請中※1となっています。

そこで、今回は株式会社CureAppで減酒治療アプリの開発を担当する宋医師が、国内の治療アプリの開発状況とその可能性について解説致します。なお、ここでは臨床的位置づけにより「治療補助アプリ」であるものについても「治療アプリ」の一類型としてご紹介いたします。



治療アプリとは

スマートフォンなどの汎用デバイスで用いるアプリのうち、治療を目的とした医療機器として厚生労働省の承認等を受けたものを「治療アプリ(デジタル セラピューティクス、DTx)」といいます。治療アプリは、医師が治療のために処方し、患者さんが利用するソフトウェアの医療機器(プログラム医療機器)です。治療アプリを用いることで、従来は十分に医療介入ができなかった患者さんの行動や考え方にアプリを通じて介入し、治療することが可能となります。医療現場における活用に期待が大きい一方で、新たな領域であるため効率的な開発に課題がありましたが、医療現場における早期利用の実現に向けて、薬事承認を得るための基盤整理を規制当局が中心となって進めており、今後の広がりが一層期待されています。

2025 年1月現在、国内で薬事承認を受け、保険適用をされている治療アプリは「CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCO チェッカー」(2020 年12 月保険適用)と「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ」(2022 年9 月保険適用)の2つです。

治療アプリの開発状況

現在国内で開発中の治療アプリについてご紹介します。

サスメド株式会社の不眠症に対する「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」は薬事承認を取得しています。不眠障害を有する患者さんに対し認知行動療法を実施するために用いるソフトウェアです※2。

CureAppでは、「減酒(飲酒量の低減)」を治療目標とすることが適した患者さんに対する心理社会的治療を補助する治療アプリを開発し、薬事承認申請中です※1。患者アプリでは、実現可能で具体的な減酒の手段を提案し、医師アプリでは、蓄積した患者データを活かして効率的にケアを行えるようにサポートします。

塩野義製薬株式会社の小児ADHD(注意欠如・多動症)に対する治療アプリも薬事承認申請中です。認知機能において重要な役割を果たすとされる脳の前頭前野を活性化するように設計されており、スマートフォンやタブレットで、患者さんごとに最適化された二重課題を行うことで大脳皮質の刺激を行い、患者さんの状態を改善するように促していく仕様になっています※3。

その他にも国内で開発中の治療アプリの領域は多岐にわたります。(表1)

(表1)


社名

対象疾患

開発状況

提携・導入

CureApp

ニコチン依存症

2020年12月保険適用

慶応義塾大学

高血圧症

2022年9月保険適用

自治医科大学

アルコール依存症


薬事承認申請中

久里浜医療センター

岡山市立市民病院

サワイグループホールディングス株式会社

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

開発中

東京大学

サワイグループホールディングス株式会社

がん

開発中

第一三共株式会社

慢性心不全

開発中

ゆみのハートクリニック

慢性腰痛症

開発中

福島県立医科大学

サスメド

不眠症

2023年2月薬事承認

久留米大学

乳がん

開発中

国立がん研究センター

Advance Care Planning

開発中

国立がん研究センター

慢性腎臓病

開発中

東北大学

日本リハビリテーション学会

塩野義製薬

ADHD

薬事承認申請中

Akili Interactive Labs

田辺三菱製薬

うつ病

開発中

京都大学
国立精神神経医療センター


アステラス製薬

2型糖尿病

開発中

Welldoc


MICIN


過敏性腸症候群


開発中

東京大学、東北大学


2型糖尿病


開発中

テルモ


大腸癌


開発中

国立がん研究センター東病院


肺癌


開発中

国立がん研究センター東病院

emol

強迫症

開発中

兵庫医科大学精神科神経科学講座

Hedgehog MedTech

頭痛


開発中

株式会社アルプス

株式会社フォネット

豊前医化株式会社


※「野田侑子 佐竹晃太 精神科臨床における治療アプリの可能性 臨床精神医学(2024) 53 1385-1390」より論文投稿時点の情報を基に作成。


治療アプリの可能性と今後の展望

CureApp のアルコール依存症に対する減酒治療アプリは、減酒治療を専門医療機関だけでなく、一般内科等の非専門医療機関でも広く提供することを目指し、100万人を超えると推定される未治療の患者さんにもアプローチしたいという期待を持って開発を進めました。この治療アプリによって、受診のハードルが下がり、治療を始められる状況が生まれることで、必要に応じて治療アプリと飲酒量低減薬の併用や、効果不十分な患者さんに専門医療機関を紹介するといったアクションに繋げることもできます。このように、比較的軽症例において安全性を担保した治療介入が未治療の患者さんの受診のハードルを下げ、治療アプリが浸透し始める分野であると考えられます。

心理社会的治療が治療の中心となる領域において、個人に寄り添った介入方法と成り得る可能性を含んだ治療アプリの今後の開発と社会実装について、企業・研究機関・規制当局等は従来の枠組みにとらわれない新たな評価制度を構築していくことが求められています。臨床現場の課題を反映し、患者さんの気持ちに寄り添った最適な医療を提供できるよう願っています。
※1:日本初、CureAppが「減酒治療アプリ」の製造販売承認申請https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000173.000015777.html
※2:サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリhttps://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/331621_30500BZX00033000_A_01_02
※3:塩野義製薬 デジタル治療用アプリSDT-001 の国内第3 相臨床試験の良好な結果およ び国内における製造販売承認申請についてhttps://www.shionogi.com/jp/ja/news/2024/02/20240226-1.html

<解説>

宋 龍平 
株式会社CureApp / 岡山県精神科医療センター 医師
東京医科歯科大学 精神行動医科学 非常勤講師
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 研究協力員

長年、アルコール依存症に精神科医として向き合う中で、早期治療普及の重要性を痛感し、CureAppで減酒治療アプリプロジェクトを立ち上げた。最前線の診療現場に立ちながら、研究にも精力的に取り組み、日本アルコール・アディクション医学会を始め、複数の学会で受賞歴がある。 

研究実績はこちら https://researchmap.jp/rso

※取材をご希望の際はCureApp広報までご連絡をお願いいたします。